浮かぶ容疑者の二面性/震撼 3歳児暴行死(上)
父親が3歳の長女を虐待し、死なせた。暴行だけではなく、水を掛けたり、大便を食べさせたりする異常な虐待に島中が震撼した。父親の虐待におびえ続けた小さな命は救えなかったのか。容疑者の人物像や行政の対応を検証する。
■発覚
26日午後、平良西里にあるアパートの一室。救急隊員が駆け付けると女児が横たわっていた。意識はなかった。側では父親の伊良部和士容疑者が必死の形相で心肺蘇生を施していたという。
「呼吸が浅い」。救急隊員は「なぜこうなったのか」と母親に問いただしたが返答はなかった。部屋の中にいたはずの女児の手足が汚れていることが気になった。「何かおかしい」。母親が語らない事態をいぶかった。
女児は病院に搬送されたが、翌朝死亡した。死因は頭部打撲による頭蓋内損傷と診断された。
その後の調べで、伊良部容疑者が女児を床に突き倒していた事実が判明した。日常的な虐待も明らかになった。宮古島署は28日、傷害致死容疑で逮捕した。取り調べに対しては、「言うことを聞かなかったため暴力を振るった」と供述した。
容疑者の同級生の一人はこの発言を非難。「そんな理由で娘を……許せない」と吐き捨てた。
■問題児
伊良部容疑者は少年のころから問題児扱いされてきた。先輩には腰が低く、同級生には普通に接するが、後輩や女子への暴言はひどかった。
容疑者をよく知る同級生は「クラスの女子はみんなが嫌っていた。後輩たちは怖がっていた」と当時を振り返り、「弱い者をいじめるのはあれの性格だった。権力への憧れもあった」と話す。
中学時代、クラスの女子に対しては「お前ブスだなあ」「死ね」「お前の顔きもいよ」と真顔で蔑視したという。
「後輩にあざができているのを見て、『お前やりすぎだろう』と注意したことが数回ある」と明かす男性もいた。
そんな伊良部容疑者は中学3年時、城辺地区から平良地区の学校へ転校した。このときの様子を同級生が語る。「学校中大騒ぎだった。『やっと和士が消えてくれた』と喜ぶ人が多かった」。
しばらくして同級生に電話が入り、伊良部容疑者はこう言ってはしゃいでいたという。
「俺は強い。もう平良で番長になった」
■二面性
「俺さあ、今がすごく幸せなんだ。子供のために頑張るから」
事件発生前、伊良部容疑者が幼なじみに語った言葉だ。「和士の優しい面を感じたし、やっと大人になったんだなあと安心した」と振り返る。
伊良部容疑者が娘を虐待死させる事件は、その矢先に起こった。
「あの言葉は何だったのか。あまりのショックに言葉もなかった。あそこまでひどいやり方は教育でもしつけでも何でもない。絶対に許せない」
幼少のころから伊良部容疑者を知る女性は、容疑者の二面性を垣間見たという。「あんなに優しくて愛きょうのある子が虐待をするなんて信じられなかった。普段、私たちに見せない顔があったとしか思えない」と驚きを隠さなかった。
伊良部容疑者と同じ中学に通った一つ先輩の男性も「やんちゃだったけど愛きょうはあった」と思い返すが、突き放すようにこう言った。「あんなことをするなんて、人間として終わってる」
同級生や知人に見せる表情と、自宅での異常な行為に強烈な二面性を併せ持っていた伊良部容疑者。凶行を止めることはできなかったのか。