後手に回った対応/震撼 3歳児暴行死(中)
求められる体制強化
女児への虐待、暴行死は防げなかったのだろうか。児童相談所や宮古島市、行政の対応に焦点を当てて検証する。
■後手に回った対応
伊良部和士容疑者は今年6月、妻と4人の子供とともに沖縄市から宮古島市に移住した。「逃げるように帰ってきたと聞いている」と話すのは容疑者をよく知る友人だ。
妻や子への暴行はコザ児童相談所(児相)が4月に確認して一時保護を決めたが、一家の移住で保護には至らなかった。
コザ児相はその後も指導を続け、母親に宮古島市から離れることを促し応じない場合は職権で強制保護する方針だった。
宮古島市には7月23日か24日に出張し、容疑者らが住むアパートを訪問する予定だった。しかし別の虐待事案に対応するため、これを延期した。
この間、コザ児相から報告を受けた市や警察が容疑者のアパートに出向いているがそれぞれ一度きりだ。児相は「被害児童の母親から『立ち寄りはしないでほしい』という申し入れがあった」と警察に報告。警察はこれに従った。
コザ児相は、伊良部容疑者による異常な虐待や妻へのドメスティックバイオレンス(DV)を把握していたが、関係機関との連携が万全だったとは言い難い。むごい虐待の詳細を知っていれば市や警察の対応も変わっていたのではないか。命を救う対応が後手に回った感は否めない。
■児童相談所
虐待に遭っている子供を強制的に保護できるのが児童相談所だ。県内ではコザ児相、中央児相のほか、児相八重山分室が石垣市内に開設されており、宮古島市には存在しない。
児童虐待事案の増加に伴い、市は過去に宮古分室の設置を要請してきた経緯がある。2010年には県も分室の必要性を認めているが、職員定数の制約などを理由に開設を見送り続けた。
この件について、県の担当課の子ども生活福祉部青少年・子ども家庭課は「今のところ分室の話はない」と回答。2012年8月に開所させた児童家庭支援センター「はりみず」に「相談機能を持たせている」とした。
ただ、子供の一時保護ができないため、対応にはやはり限界がある。
同課は「児童家庭支援センターが開設し形ができてきていると思っていた最中だった」と事件の発生を悔やむ。分室の必要性については「今後何が望ましいのか、外部委員を含めた検討が進められていく」と話した。
八重山分室は2007年に開設。今は職員7人で対応に当たっている。
■求められる体制強化
7月15日午後、一家が住むアパートを市の職員が訪ねると、「何やっているんだ」「何を言っているんだ」と居間にいた容疑者が怒鳴った。
児童虐待に詳しい女性は「虐待があると疑われる家を訪問するのがどれだけ怖いことか」と首を振り、市の対応人員の少なさを指摘する。その上で「児相の分室があれば……」と八重山の例を挙げて必要性を訴えた。
別の行政職員は「私たちでは子供を保護することができない。沖縄本島の児童相談所が来て対応するが、緊急時はどうするのか。時間的ロスがある」と嘆いた。
市教育委員会のスクールソーシャルワーカーに寄せられた相談は6月だけで58件に及ぶ。相談内容は家庭環境や遊び・非行が多いが、虐待、あるいは虐待が疑われる相談も5件あった。担当課長は「いつ、どこでも起こりうる問題だ」と危機感を募らせている。
2010年1月、児相分室の設置要請に関連して当時の市の職員はこう訴えている。
「事件が起きてからでは遅いんだ」