吉本さん、有終の美/トライアスロン
32回連続出場の強人宮古の家族とラストラン
宮古島のトライアスロンを知り尽くす強人が有終の美を飾った。兵庫県の吉本賢一さん(65)。第1回大会から32回連続で限界に挑み続けた男だ。年齢制限によるラストランでは目標の完走を達成。トライアスロンを通じて知り合った宮古の仲間と共にゴールテープを切った。「感無量です」。晴れ晴れとした表情で32年の歴史を締めくくった。
制限時間の午後8時30分が迫る中、吉本さんは残り10分を切ったところで陸上競技場に姿を見せた。
「来た!」。吉本さんと30年余付き合う豊見山伸子さんら家族のような仲間が歓声を上げる。残り100㍍。吉本さんの後方には応援幕が幾重にも連なった。
吉本さんは一歩一歩、思い出を刻むように歩を進めた。「これで終わる」。達成感と寂しさが入り交じる複雑な気持ちを抱えて最後のゴールに飛び込んだ。
32年間挑戦を続け、27回目の完走だった。
ゴール後は仲間にもみくちゃにされた。一気にうれしさがこみ上げる。「今までにない感動。最高というしかない」と目尻を下げた。
レース中は、「完走しなければという重圧に負けそうだった」という。支えてくれたのは「沿道からの声援だった。32年間、お世話になった方々の励ましと応援が私を重圧から解放してくれた」と感謝した。
震災についても思いを巡らすレースだった。1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、そして熊本地震。「阪神淡路大震災のとき、ぼくら関西人は『つぶれへん』という気持ちで踏ん張った。そのときの気持ちを思い出して走り続けた。熊本にも同じメッセージを送りたい」
32年間を振り返り、「子どもからおじいちゃんやおばあちゃんまで応援してくれるのが宮古島大会。32年の記憶が蘇ってきた。感謝のあまり言葉も出ない。タンディガータンディ」とあふれる思いを表現した。
「安心したよ」と胸をなで下ろすのは友人の豊見山さん。「これからも宮古島には来てくれるはず。彼は私たちの事を忘れない」と話し、交流の深化を期待した。
吉本さんは「もちろん忘れない。私は、今まで至れり尽くせりの贅沢をさせてもらった。トライアスロン仲間の応援や記念大会のたびにここに戻る。第2の古里ですから」と笑った。